鉛を金に変えるという神の御業が錬金術。かつて、多くの錬金術師たちがその難問に挑み、特別な知識と技術を身につけようと奮闘してきました。
開拓者たちは深い森林を開墾して、豊かな実りの大地を生み出しました。これもまた、人間の持つ大地に根ざした錬金の力でもありますね。
土星を象徴するサトゥルヌスあるいはクロノスは農耕の神であり、大地を耕して実らせるための一連のプロセスそのものを神格化したものです。
大地と向き合って、コツコツと実りを得るために働き続ける力を与えてくれるのが土星。意識とエネルギーをグッと方向付けることで、物事を実現させる力をもたらしてくれるでしょう。
あれもしたい、これもしたいという欲求があっても、本当に実らせるためには、それを厳選して、他を諦めることが必要です。土星のもたらす制限や厳しさは、ひとつの物事に私たちをコミットさせるでしょう。
このルールと限界に対して、窮屈さを感じたとしても、これをなくして、何かを成し遂げることはできません。この世界で何かを成した経験があるなら、それは土星と共に活動したといえます。
しかし、その育成のプロセスにおいて、時に人々は自分ではどうしようもできない力に脅かされます。
思ったように雨が降らないかもしれないし、台風がせっかく作った畑をすべて押し流してしまうかもしれないし、収穫の直前に動物がすべて食べてしまうかもしれないし、戦争が起きて土地を追われるかもしれない。
苦労しても実らない、頑張っても報われないことがたびたび起こり、そのたびに期待していた私たちの心は砕かれ、落ち込み、どうしようもない思いに駆られるでしょう。
土星のもたらす問題は、そのように、願ったほどの成果があがらなかったときに生じます。
心を傾け、時間とエネルギーを費やして頑張ったのに、報われなかったとしたら、どうしますか?
大抵の場合、ふたつの選択のどちらかを選ぶことになります。
もっと厳しく気を引き締めて頑張るか、期待することを諦めて、そこそこにやるか、です。
そしてどちらを 選んだにしても、そこには報われなかった記憶と一緒に、複雑に絡み合った感情がしまいこまれます。
その記憶の層が、似たような状況がやってきたときに、私たちを同じパターンへと導くことになるでしょう。
失敗したくないので、すべてをコントロールする形で成し遂げようとするか、あるいは逆に失敗したくないからこそ、責任は誰かに背負ってもらい、自分はなるべく負担の少ないところにいようとするか。
誰かを頼るか、あるいは誰にも頼ることができないかという、相反する両方の行動の内側に、この複雑な抑圧が隠されています。
ホロスコープの土星のある星座やハウスは、この複雑さを最も作り出しやすい領域や分野が何であるのかを象徴するでしょう。
そしてそれはまた、その人が最も集中してエネルギーを注いで、人生の中で成熟させることのできるものが何であるかということも示しています。
抑圧された複雑な思いを紐解いて、鉛を金に変えていく……人生における錬金のプロセスが土星の中に隠されているのです。